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2022年1月16日日曜日

無量寺の虎図


 寅年です。

 今頃、この記事を書く気になったのはこんな理由からです。15()にトンガで発生した火山噴火の影響で津波が発生し、日本でも津波注意報や警報が発表されました。和歌山県の串本町袋港では90cmの津波が観測されたという情報です。無量寺というお寺はもともと袋地区にあったのですが、宝永4年(1707年)10月の宝永地震による大津波で全壊・流失してしまいました。その後、無量寺の再建の使命を帯びた文保愚海和尚が入院し、天明6年(1786年)、串本町串本に本堂を再建したという話を聞いたことを、袋港の津波情報で思い出したからです。

 昨年11月の終わりに和歌山県の串本に行きました。およそ30年ぶりの本州最南端行きです。以前から円山応挙の絵が、串本のお寺に所蔵されているということは知っていたのですが、行ったことがありませんでした。串本へ行くついでに見てみようと思いました。

 無量寺という寺があって、そこには応挙芦雪館という美術館があるらしい。古くからの港町らしい、細い道路を歩いて行くと無量寺、その境内に応挙芦雪館がありました。入り口には、コロナのため6名以上は入れないという注意書きがありました。幸い、私一人しか訪問者もなく、受付にはスタッフも不在で、ベルで呼ぶような「密を避けた」状態でした。

 入館料は1300円。入るとまず見せられるのが、「美の巨人たち」というテレビ番組の、無量寺の絵画を紹介した回でした。これが初心者にはちょうどよい。何の予備知識もない者にもわかったような気にさせられます。テレビ画面の左右には、ふすまに描かれた長澤芦雪の「虎図」と「龍図」。襖四面に渡る一頭の大きな虎。同じく四面に渡る龍。どちらも重要文化財だそうですが、本物はここにはありません。本物は収蔵庫に保管されているのです。

 係の方に案内されて収蔵庫に入ります。空気も光も、大切な宝物にはよくないのでしょう。閉じ込められたら決して出られないような厳重な収蔵庫です。「虎図」を見てみます。さすが本物は違う!と言いたいのですが、やはり薄暗い中での文化財は、よく見えたような見えなかったような。「虎図」はふすまに描かれた、とっても大きなものですが、実は顔が虎らしくない。虎の絵だと思ってみているから虎なのですが、どちらかというと猫の顔です。これには仕掛けがあって、このふすまの裏面にべつの絵(「薔薇に鶏・猫図」)が描かれているのですが、その絵の中に、水際で魚にちょっかいを出している子猫が描かれているのです。この子猫を魚の側から見たら、「虎図」のように見えるように描かれているというのです。

 芦雪は、こういうくすぐり、遊びの得意だった人のようです。絵を見て納得して、そのあとオチがあって、にんまりするという作品たちです。

 不勉強な私は、長澤芦雪という絵師を知りませんでした。しかし、無量寺にある作品たちは応挙よりもむしろ、芦雪作のほうが主役なのです。

 江戸時代後期、無量寺の再建にあたり、以前からこの寺の愚海和尚と親交のあった応挙が、寺の再建の際には作品を描くという約束をしていました。ところが、当代人気絵師であった応挙は串本まで出かけていくわけにいかず、1000人ほどいた弟子のうち、長澤芦雪を串本に派遣したそうです。応挙の作品を携えて南紀に向かった芦沢芦雪は10か月ほど南紀に滞在したそうですが、その間に絵の雰囲気も変化し自由奔放な画風になり、滞在中270点ほどの作品を書いたらしい。

 収蔵庫を出て、今度は本堂へ案内されます。ここにも、「虎図」「龍図」があります。もともと本堂の襖絵ですから、ここにあるのが正しい。しかし、保存のため本物は収蔵庫で守られ、そのレプリカが本堂と応挙芦雪館の本館に置かれているということです。同じ絵を3種類鑑賞することになります。

 でもなぜ串本で?と思いますよね。今でも京や大阪からは遠い。串本が風待ち港だったゆえ要人たちもここを訪れているのだそうです。勝海舟も十四代将軍徳川家茂も、この無量寺の上間一之間で過ごしたことがあると、スタッフの方が説明されました。

 当初は私一人だった入館者は最後には10人ほどになっていました。スタッフの方は一人でも10人でも、素人なら素人にわかるように丁寧に解説してくださいます。とっても理解ができたように思われる無量寺と応挙芦雪館でした。

 応挙という名前を惹かれて尋ねてみましたが、むしろその弟子である芦雪の作品のほうが見どころである美術館です。

 

masaya's ART PRESS」というブログの次のページを読んでいただくとよくわかると思います。

【新美の巨人たち】長沢芦雪「虎図」①【美術番組まとめ】

 

 最初に津波と書きましたが、今回の海底火山による「波」は気象庁の定義では津波に当たらないそうですね。気象庁では、「地震は地殻変動の結果として海水を押し上げること」だそうです。難しい話です。

 

2022年1月1日土曜日

 

新年あけましておめでとうございます。

コロナ禍により学校が従来と違う対応を求められるようにになっておよそ2年、今度はオミクロン株の流行が心配されています。1日でも早く、コロナ禍が終息することを祈ります。

奈良大学国語教育研究会は昨年26回目の研究会を8月にリモートで行いました。大学を会場にして開催し、リモートでの参加も可能にするハイブリッド方式を計画していましたが、直前になって大学への入構が制限されたため、リモートでの開催になりました。同じ空間で話題を共有する感覚は味わえませんでしたが、その代わりに、普段なら参加が難しい遠方からの参加者もあり、実のある研究会になったと思っています。

27回目の今年こそはハイブリッドで開催したいと準備をしています。今話題となっている、また教員にとっては課題となっているGIGAスクールを中心にすえた研究会にしたいと計画をしています。開催日は8月6日(土)。どうぞ、多くのみなさんのご参加をお待ちしています。

 穏やかな1年になることを願って、新年のご挨拶とします。

 会長 大呂広志