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2020年6月28日日曜日

日本語力で切り開く未来   齊藤 孝 インターナショナル新書


 話し言葉が優位に立ち、書き言葉による伝承が希薄になっている現代において、読むこと書くことの大切さを説く一冊。
 私たちは先人の遺した文字によって知恵を得てきた。一方でブログやSNSなどの普及により誰でも発信者、表現者になれる時代である。その時代に文字による遺産をうまく受け継ぎ、糧にしようとしていない現代の日本に筆者は危機感を覚えると言います。
 では、どうすればよいか。筆者は、相手の行ったキーワードを押さえながら会話を続けることとか、先人の文章を引用することで先人と融合することを勧めています。また、本を読むとき、(同級生でもクラスでも)他人の読みを確認しながら読み込んでいくこと、五七五を作る実践のなかで日本語力を磨くことなど、いくつもの提言をしています。
 「先人の遺した」というだけあって、なんと多くの先人が登場するか。松尾芭蕉、森鴎外、夏目漱石、中島敦、福沢諭吉、孔子、幸田露伴、額田王、大海人皇子、柿本人麻呂、賀茂真淵、本居宣長、稗田阿礼、太安万侶、紫式部、清少納言、折口信夫…まだページ数は全体の3分の1くらいですが、これだけの登場人物(疲れたのでもう書くのをやめます)。それぞれのエピソードを読んでいるだけでも楽しい。
 話す、聞く能力偏重の世の中から、もう一度、読むこと書くことの大切さを見出す世の中に変えていくことが大切と一冊を締めくくっています。
 改めて「帯」を眺めてみると次のように書かれているのに気づきました。「SNS時代、お困りのあなたに…齋藤孝が解決します」して、そのお困りとは、「コメントが書けない」「投稿がバズらない」「“いいね”をもらえない」キャッチコピーとしてはわかりやすいけど、この一冊で解決できるかな?そんなに単純なものではないように思いますが。

 実は、授業の合間の小ネタがいっぱい詰まっている、国語教員にとっては、すぐ役立つオイシイ一冊だと思って、ここに載せました。 

hill

2020年6月24日水曜日

2017年 スペイン巡礼 北の道 (40)


711028 棚橋正人
78日(土) バーモンデ(Baamonde) ~ ミラズ(Miraz)  16㎞                                                        

 若い奴らは朝まで騒いでいたらしい。いつもよりみんなのスタートが遅い。
フランス人の道で旧市街のアルベルゲに金曜日に泊まったことがある。ベッドの部屋の道路をはさんだ向かい側にバルがあり、住民が朝まで飲んで騒いでいたことを思い出した。スペインでは、週末の大騒ぎは通常で、巡礼者もいっしょに飲んで騒げばということなのだろう。カルラとデルクは骨休めのためにアウトドアの水遊びツアーに参加すると言っていた。長年貯めた有給休暇を有効に使うそうだ。それもいい!

 それで、土曜日の朝はいつものように街中が寝静まっている。
でも、遍路はいつもの時間に宿を出て歩き始める。えらいなぁー!
今日一本目のモホンは「あと100㎞」。カミーノも残り少なくなってきた。
嬉しいような、寂しいような…。それでも今夜の宿にたどり着くためには、一歩前に!進むしかないのだ。
 線路に並行して国道を歩く。四両編成の客車が通り過ぎる。この線路はサンティアゴに通じているのだ。線路を渡って次に石の橋を渡る。森の中に古びた教会があった。これはロビンフッドの撮影に使えるなぁ。ここはサン・アルベルトのチャペル。さっき渡った橋は古代ローマの橋の上に建てられたものだそうだ。
村に入ると石造りの壁の、石の積み方がおもしろい。いろんな形の石が複雑に組合されている。これは新しいものかもしれない。貯木場に木材の山があった。


 
牧場に羊がいた。林業と酪農を含む農業の村が続く。スペインの食料自給率は8割だそうだ。日本は3割しかない。農業に力を入れない国は根本的にだめだと思うのだが、これからが心配ではないのだろうか。関空の近くの友達が「かぼちゃを空輸する際の木のコンテナをもらって廃材を利用している」と言っていた。日本はかぼちゃが空を飛んでくる国なのだ。その飛行機はガソリンで飛ぶ。イランに対してのアメリカの挑発が続いているが、石油が輸入できなくなったら米以外に食卓に並ぶものがあるのだろうか?

村に「スタンプを押してほしい人はどうぞ!」という看板があった。庭から入ると髭のおじさんが石を掘っている。丸い石板はアステカとかマヤ文明のような絵柄だった。挨拶をすると作業の手を止めてスタンプを押してくれた。詳しくいうとスタンプではなくクレデンシャルに赤い蝋を垂らし十字の印を押してくれた。後ろからもう一人巡礼者がきたのであまり話せなかったが、代わりにカメラのシャッターを押してもらった。これもお接待。なかなか渋い親父だった。
昼になったのでバルに入った。TVがついていて祭りを映しているのだが、それがどこかで見たような祭りなのだ。まず広場の真ん中に山のように薪を積み上げて火をつける。それがすっかり真っ赤な炭になったところで、山を崩して5mほどの火の川をこしらえる。そして、その火の川を神様に願い事をした人が裸足で渡るのである。日本で「○○の火渡り」というテレビのコマーシャルを見たことがある。同じものがスペインにあるのがビックリだった。日本のは密教というか山伏の装束の方たちがやっていた。ただ一つ違うのは、こちらは男性が恋人をおんぶして渡り切り、その後にプロポーズをするというのがあることだった。映像を見る限りすべての女性が「SI」(はい!)と答えていた。これは百中百発に違いない!

村に入るとすぐのところに新築のアルベルゲが建っていた。まだ時間が早いがここを過ぎると25キロ先まで宿がない。昨夜は寝たのが遅かったし、本日ここまで!!
宿のお姉さんに受付をしてもらう。食事も出るそうでそれをお願いする。
顔見知りのアメリカ青年とテラスで話をした。両親はメキシコからの移民で英語がまったく喋れない。それが自分は嫌で仕方がなかったが、スペインに来て両親のおかげでみんなとスペイン語でいろんな話ができた。今はとても親に感謝している。帰ったら一番に両親にそのことを伝えたいと語った。
いい話だね。みんないろんな思いをもってカミーノを歩いてるんだ。
カミーノはメキシコや南米から来た人が多く歩いている。フランシスコ教皇もアルゼンチンの方だ。たいてい母語はスペイン語だから、彼の感じたことは想像がつく。

泊まり客も少ないのでテラスの椅子を占領して本が読める。サンティアゴまであと5日。いよいよ最終ラウンドに入ってきた。平穏に何事もなくゴールしたいものだ。良い出会いがたくさんあった。
フランス人の道との合流点アルズアまであと3日。
ここから先は巡礼者の数が多くなり宿が混雑するという。
残りわずか!楽しんで歩こう!
今夜はワインを少しだけ。眠くなってきたぞ。ベッドが俺を呼んでいる。
おやすみー!あしたのこころだー!!

2020年6月17日水曜日

2017年 スペイン巡礼 北の道 (39)


711028 棚橋正人
77日(金) 後半 バーモンデ (Baamonde) 
                                                       
    

何やら辺りが騒々しい!懐中電灯で時計を見ると時間はまだ11時!
重低音がベッドに響き、サーチライトの明かりが窓から差し込む!
戦争でも始まったか!異星人の来襲か?なんだ?なにが起こったんだ?

あちこちの二段ベッドからブーイングの声が暗い室内に響く。
ドラムの音が鳴る。ガンガンのロックがすぐ近くで鳴っている!
そういえばアルベルゲの隣で新築のバルが工事をしていた。バルは開店間近のようで椅子やテーブルなどを夕方から運び入れていた。その道を挟んだ向かい側が広場で移動式のステージがしつらえてあった。明日の土曜日にイベントがあるのだろうと思っていたが、今夜かよ!それも深夜11時からってどういうことだ!そもそもここは巡礼者のアルベルゲだぞ!朝は8時には出ろ出ろ歩けって追い出され、門限10時で扉は締められたはずだ!4時から起きて歩く奴もいるのに!夜の11時からのライブはないだろ!まったく!!

ところが、巡礼者の中には嬉しそうにいそいそ出ていく奴がいる。 
しばらく我慢をしていたが騒ぎは収まる気配がない。耳栓をして寝てしまうのも手だが、どうせ寝られないのならちょっと様子を見てこよう。

外に出ると舞台にスポットライトが当たっている。が、歌手が一人だけ。
バンドはなし?!なんだテープを流しているのか!
だが、スピーカーはデカい!そして、音量だけが半端なくデカい!
司会者が一人。ところが観客がいない!なんだこれは!

 このショーは新しくできたバルの新装開店のイベントだったのである。
11時はさすがに冷える。地元の客は温かいバルの中で飲んで外に出てこない。
カナダのスキンヘッドがリズムに合わせて身体を揺らしている。
デルクがビール片手に踊っているぞ!あはは!こいつらはまったく!
ステージのお姉さんが裸に見えたが、そんなはずはないだろう!?ヤバイ!よく見るとライトのせいで、ホットパンツに胸の空いた衣装だった。照明はコンピューターに打ち込まれているらしく無人でフラッシュしていく。


男性司会者が盛んに呼びかけるが観客は遠巻きにしてステージになかなか近づかない。村の住民よりペレグリーノの方がよっぽど乗りがいい。
デルクが僕を見つけてビールをおごってくれた。奴はもういいご機嫌だ。
前座が終わって男性歌手がステージに。この人の歌はまだ聞ける。
司会者が「みんな踊って!」とかなんとかいっている。やっとパラパラ地元民がステージに近づいてきた。ロックは向かい合って踊るからこの野外では寒すぎる。深夜だが子どもがお母さんと手を取って踊っている。楽しそうだ。

楽しめばいいかそんな気持ちになってきた。ビールもおいしい。でも、寒い!!そこで、踊っているデルクにことわってカルラにダンスを申し込む。
こう見えてわたくし『Shall we dance』に魅せられて少々ダンスの心得がありますのじゃ。カルラの手を取り簡単なジルバのステップを踏む。左手でくるりとカルラを回す。ダンスは男性のリードで決まるのです。なかなか楽しいがすぐに息があがってきた。これ以上はボロが出るのでおしまい!カルラに一礼をしてデルクに奥様をお返しする。いやいや楽しかった!
みんな夜をたのしんでね!ハポン遍路は充分満足しました。もう寝られます。

思えば「北の道」に来て一番長い一日でした。 
まさかこんな展開になるとは…。
芸は身を助く!人生は楽しむためにある!

ビールの酔いとダンスの高揚と身体の疲労と眠たさでドーパミンが……。

あしたのこころだー!