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2020年6月10日水曜日

2017年 スペイン巡礼 北の道 (38)


711028 棚橋正人

77日(金)前半 ビラルバ(Vilalba)~ バーモンデ(Baamonde 22㎞                                                        



  昨日、行ったスーパーにいろんな魚が並んでいた。いわし・アジ・さば・タイ・カマス・舌平目にアンコウまであった。ここはガリシア州。海までは100キロもないから新鮮なはずだ。そのうえ鮮魚の隣には日本の寿司パックが並んでいた。巻物が中心だが値段は二千円。スペインの寿司とはいかなるものか食べてみたかったが、ちょっと高いので買わずに帰ってきた。

 さて、がんばって歩くぞ!アルベルゲは町の入り口に位置するので、昨日買い物に出た道を中心街に向かって歩く。道路わきにアスファルトを舗装するための巨大ローラー車が放置してあった。日本で見たことのあるのはディーゼルエンジンだが、これはなんと蒸気機関で動くのだ。こんなのは初めて見た。つる草が車輪に絡まり、そのままジブリの映画に出てきそうだった。こういう機械(マシン)に愛着を感じるのはなぜなのだろう。人間がまだコントロールできたものだから。汗をかいたり涙を流したり悲鳴をあげたりしてまるで人間みたいだからかもしれない。

僕が大学生のころ(1971年)の国鉄奈良駅には蒸気機関車がまだ現役で止まっていた。夏休みに函館から乗った急行はSLで、沿線にカメラを抱えた人がやたらにといると思ったらカーブのところで二重連(機関車が二台で客車を引っ張る)だとわかってわくわくした。トンネルに入って窓を閉めないでいると煤煙で鼻の穴が真っ黒になるということも経験した。おそらく我々がこんなことを体験した最後の世代になるのだろう。この旅で産業遺産をいろいろ見たが、過去の歴史をちゃんと残すことは、未来を切り開くために重要なことだと思う。

ここひと月くらい老人の起こす交通事故がやたら多い。昨今はクラッチのない車やエンジン音のしないハイブリッド車が多くなっている。あれは車だろうか?人と機械との付き合い方が時代のどこかで変わった気がする。スペインは現在もミッションはマニュアルでエンジンもガソリンよりもディーゼルが主流なのだ。新車よりも使い古したトラックが走り、スズキのジムニーや年代物のトラクターがまだまだ現役で活躍している。使い捨ての時代が長く続き、大量生産、大量消費の経済は地球規模でもう破綻が来ている。異常気象・環境問題はグレタさんが言うように今すぐに対応を迫られている問題なのだ。

そういえばまだ朝飯を食べていなかった。街角にカミーノの矢印とホタテ貝マークのあるバルがあった。入ると地元の方々がのんびりコーヒーを飲んでおしゃべりをしている。喫茶店の文化がある土地はいい。バルとは喫茶店と居酒屋を合わせたような朝から夜まで開いている便利な店のことである。
以前に中山道を自転車で旅したことがあった。岐阜県を走っていた時、日曜の喫茶店が朝から満席だった。家族連れが多くて空いたカウンターにやっと座れた。モーニングを注文すると切り干し大根の小鉢に味噌汁・おにぎり・トースト・サラダ・卵までついて珈琲一杯の値段だった!これは繁盛するはずだわ!それにしても採算がとれているのかと少し心配になった。ここはあの中部地方の喫茶店と似ている。居心地がいいのでついついゆっくりしてしまう。



 さて、先を急ごう!また昨日に続いて水のきれいな川があった。水草が美しい。森の中を行くと今日一つ目のモホン。コンポステーラまであと116㎞。 
石畳の道の向こうに古びた農家が見えてきた。牧場から刈って運んだ草が山のように積んである。放し飼いの鶏が庭を駆け回る。銀髪のエプロンのおばさんがホークを手に作業している。牛が小舎から顔を出して草を食べている。その鼻先を黒白まんだらの鶏が餌をつつきながら通り過ぎ、猫がそれを眺め、犬が何事もないように庭を横切る。「ここはブレーメンの音楽隊か!」と一人突っ込んでみる。このほのぼの感はあきれるほどだった。おばさんに写真をお願いしたらホークを片手に静止してくれた。うん!労働する農婦は凛々しくていい。

その横をこんどはカルラとデルクが通り過ぎた。しばらく行くと今度はおばあちゃんと孫に遭遇。孫はやっと歩けるくらい。また写真を撮らせてもらう。これはけっこうエネルギーがいる。「しまったあの時、写真を撮らせてもらえばよかった」と後から思うことは何回もある。そんな時に、「今日は出会った人の写真を撮る」と朝から心に誓って出かける。するとわりとスンナリ撮れる。
そして、スマホよりカメラがいいと思う。「一期一会」の記憶はすぐに消えてしまうが映像にしておくと案外記憶に残るものなのだ。
お礼に持っていた紙風船をふくらませてチビさんにあげた。これも天本英世氏の『スペイン巡礼』からアイデアをいただいた。感謝を示すのに日本の紙風船もなかなかいいアイテムだと思う。
昼になったので2件目のバルに入る。壁に鋭い牙の猪のはく製が飾ってある。あんなのがこの辺りにはいるんだ。四国遍路の宿の親父が猟師免許を持っていて「猪のオスは牙で攻撃をしてくる。カッターナイフのようによく切れるから気をつけろ!」と言っていたのを思い出した。確か猪は夜行性だが気をつけよう!
農家が点々とある。酪農が主なので隣までの距離が長い。道に、トラックが後ろの扉を開けて止まっている。女性が2人。近づいてみたら移動スーパーだった。やっと町に降りてきた。ここバーモンデ。町の入り口にあったのはなぜか葬儀社だった。
アルベルゲは100人も収容できる大型。先についた巡礼者は隣のバルでもう一杯やっている。テラスも広くてくつろげる。ベッドを確保してシャワーを浴びてお昼寝をする。このルーティンがとても幸せだ。人生がいつもこのようにシンプルなら達成感だけが残る。どうか幸福な時間が長く続きますように!

 

 洗濯物を干してテラスへ。ベンチの隣にいたのはスコットランドのニルさん。ナッツを勧められてごちそうになった。晩飯を食べて帰ってきたら、カナダのスキンヘッドとベルギーのデルクがなにやら議論している。そこにあと56人の若い巡礼者がいてワイワイやっている。なんだ?なんだ!
中身はあまりよくわからないが、どうやら移民の問題を議論しているようだ。ベルギーは最近、移民に反対する右寄りの政党が議席を増やしている。そして、カナダは昔から移民に対して寛容な国だ。アメリカ人の青年はメキシコ系。両親はアメリカで働いて自分を育ててくれたが英語ができないそうだ。私は英語が解らず議論に加われなくて残念だが、こんな議論を聞けることが愉しい。カミーノは面白いな!世界中の人が同じ目的で歩き、知り合い、議論する。すばらしいじゃないか!やはり是非ともここに日本の若者を連れてきたいものだと思う。

目的地のコンポステーラまであと数日。そこからパリまでは飛行機にしようと思うが携帯での予約がうまくいかない。カルラに頼んでみるが言葉がうまく繋がらない。困っているとカナダ人スキンヘッドがスペイン人のクリスは日本語が話せるという。「ほんまかいな?」クリスはなんども見かけたスペイン人で、ちょっと派手な感じ。僕とは接点がなかった。話してみたらすらすらと日本語を話す。「なんで?」「日本人に友達がいる」「日本に行ったこともある」という。渡りに船で事情を話すと通訳してくれ、スマホに詳しい奴がチケットを取ってくれた。
ありがとう!感謝!感謝!持つべきものはやはり、カミーノフレンドなのだ!

さて、寝るか。今夜のビールもうまかった!

と、普通なら終わるはずが…。

この夜の展開は全く予想もしないものだった!

特別編 深夜の大事件! 77日後半につづく!!

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