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2020年7月15日水曜日

2017年 スペイン巡礼 北の道 (43)


711028 棚橋正人

711日(火)アルズア(Arzua)~ サンタ・イレーネ(Santa Irene) 16
                                                             
 昨夜、晩飯を食べて支払いをしたら、有り金が少なくなっているのに気付いた。アルズアは大きい町なので通りにATMがある。どきどきしながら操作したら案外簡単に現金が出てきた。よかった!昔はトラベラーズチェックを使ったが、手数料がバカ高い!今はクレジットカードが一番便利で安全なのだ。

残りの距離が少ないことに心がはやって、いつもより早く目が覚めた。
しかたない起きるか。他の人を起こさないように静かに支度をしてベッドを後にする。寝袋を畳むのはロビーにした。外に出るとまだ真っ暗だった。
ここからの道は5年前に一度歩いているからたぶん覚えていると思う。
メインストリート沿いの公園に不思議な女性の彫像がある。民族衣装のこれは誰なんだろう。前回から気になっていたので調べてみた。
この町の名物はアルスーア・ウジョアという牛乳から作られたチーズだそうだ。日本ではチーズは牛の乳から作ると思っているがとんでもない間違いなのだ。スペインのスーパーに行くとチーズのコーナーがあって、冷蔵のガラスケースの中にでかいチーズの塊がドカンドカンと並んでいる。これをお姉さんに「○○グラムください」と言って切り分けてもらう。そのチーズは山羊のチーズ・羊のチーズ・牛のチーズとあるが、牛よりも羊や山羊のチーズの方が多い。その中でも羊が一番多くて全体の生産量の約6割を占めるそうだ。
よく見ると女性の足元にはかごがあって、そこに丸いチーズが入っている。なんだ!チーズか。これから行くサンティアゴ・デ・コンポステーラにも有名なチーズがあってテティージャ(尼さんのオッパイ)という名前だ。形が円錐形で大きさもそれくらい。これも牛乳から作る。味見をしたがとても美味しかった。

町はずれから薄暗い森の中を抜けていく。霧がかかって幻想的な景色だ。見晴らしのいい草地に出たところでやっと夜が明けてきた。どこからともなくポツリポツリと巡礼者が現れる。
小さな村の入り口に珍しくも自販機があって、そこに杖売りの親父がいた。ベンチにすわって杖の持ち手のL字を削っていた。柵に杖を20本くらい並べて売っている。竹の杖もあったが、いいのがなかったのであきらめた。
霧の草原をひたすら歩く。牛と牧草畑を見ていると「ここは北海道だべ?」と錯覚する。このあたりは緯度からいっても北海道なのだ。
歩く人がだんだん増えてきた。モホンの距離を刻んだ銘板が盗まれて、ない!代わりにマジックの落書きが目立つようになってきた。嘆かわしい!
「巡礼証明書」の発行には歩きで100キロ以上の条件がある。「フランス人の道」ではサリアをスタートにすると113㎞。ここの公営アルベルゲに行けばクレデンシャルを発行してもらえる。それで、サリアから歩くスペイン人がどっと増えてくる。奴らは小さいデイバックに財布と水筒だけを入れて身軽に歩く。3日もあればコンポステーラに着く寸法だ。一人旅よりもにぎやかなグループのスパニッシュがわんさか増えてきた。えじゃないか!えじゃないか!楽しく行こうぜ!
静かな霧の森の中をカップルが手をつないで歩いていく。そんなに若くはない。年のころなら30代前半。反対の手のストックを一歩一歩つきながら歩いていく。なんか訳ありな気がする。が、そんなことは聞けない。
なんだか後ろが騒がしいと思ったら、ついに高校生軍団に追いつかれた。こいつらは知っている連中ではない。これからは新手の軍団が次々に現れそうな気がする。これは無理をせず、先に行ってもらおう。どうぞ!どうぞ!おじさんは足も腰も痛いもので、お先にどうぞ!道はお譲りしますよー。

吾輩はほんとに腰がだめで長時間歩くとしびれてくる。痛みも出るので限界を超えると立ち止まって休み、ストレッチをする。これを何度も繰り返してごまかしごまかし歩く。それでこの時も道の端で座り込んでいた。

すると、後方から細身の東洋の女性が一人で歩いてくる。珍しい!韓国の方だろうと思いつつ声を掛けると、なんと日本の方だった。今回初めての日本人女性!カランカラン!大当たり―!!
前回歩いた「フランス人の道」でも出会った日本人女性は3人だけだった。外国の一人旅で「歩き」となると男性でもかなりハードルは高い。女性はいろいろな面で男性以上に気を遣う部分があるのだ。東京の「カミーノ友の会」で知り合った立花さんは、私の知っている女子の中でカミーノ歴最多の超ベテランの方。それも一人旅。それで、女性でカミーノに行きたいという方にいろいろアドバイスをしていらっしゃる。彼女が主宰の「カミーノ女子会」もやっているので、興味のある方はどうぞ!とても頼りになる方です。
さてその痩身の女子はJさん。そして、なんとまた初めての同郷、まさかの大阪人やった!
「一銭の得にもならんのにこんなしんどいことするあほな人初めて見たわ!」「ほんまやなぁー!」
彼女は「フランス人の道」を歩いて来たそうな。そうだよ!合流したのだ!アホほど多いフランス人の道の巡礼者がこれから道にあふれてくるのだニャー!いやだ!いやだ!
あんまり引き留めるのも申し訳ない。
「僕は歩くの遅いのでお先にどうぞ!行ってください」と送り出す。
「ブエンカミーノ!」「良い巡礼を!」
霧のなかに彼女が消えていく。巡礼者は後から後からますます増えて僕をどんどん追い越してゆく。前を行く若者がザックの横にファンタの特大1リットルのペットボトルを差し込んでいる。歩くたびにそれが左右に揺れる。たぶんパンパンのはず。絶対にあれは爆発するぞ。太陽が出てきて気温が上がったらもうおしまいだ!あの若者はどうなっただろう?僕はその後を知らない。

牛舎があった。ちょうど朝の搾乳の時間だ。牛は白黒のホルスタインばかり。機械で絞られた牛乳がパイプラインでタンクに流れていくのが見える。ここガリシアは牛が多く飼われている土地で、絞ったミルクはチーズなどに加工されるほうが多いのではないかと思う。なぜならスーパーで見かける牛乳は長期保存の紙パックばかりだったからだ。小腹がすいたなぁーと思ったら新しいバルが見えてきた。巡礼者が爆発的に増えてきた昨今、それを狙って新しい店がどんどん増えている。バルのない峠のてっぺんには冷たい飲み物と軽食を積んだ車が待っていることが多かったという。なかなかスペインも商魂たくましいではないか!テラス席にはパラソルまで付いていてそこはもう満席。タバコが吸えるのはテラス席だけなのでそこから埋まるのだ。店のテーブルも満席!カウンター席を見ると先ほどのハポンのJさんがいた。
「隣いいですか?」「どうぞ、どうぞ!」
朝ご飯を注文。カフェコンレチェがうまい!彼女は初カミーノなのでコンポステーラ到着の後、フィステーラとムシアに行くことを勧めておいた。コンポステーラに到着したら数日ゆっくりするというので連絡先を交換した。
彼女を見送りスローで歩き出す。ますます人が増えている。かわしてもかわしても人が湧いてくる。若い奴らがほとんど空荷なのだ。中にはラジカセを担いで音楽を流しながら歩く奴もいる。ここは昔の原宿歩行者天国かよ?
それにひきかえ800キロを歩いてきたおじさん・おばさんは10数キロの重いリュックを背負って歩く。それがまるで自分が背負うべき人生の重荷であるかのように歩いていくのだ。いろんな人が歩いている。ブラジルの国旗をザックに縛り付けて歩く人。ドイツ人のご夫婦・バギーに障害のある息子さんを乗せたお母さん・短パン・ノースリーブの女の子、まさに色とりどり。これぞカミーノ!実に楽しい!
またしゃれたバルがあるぞ!いやいや先に進まねば!
国道を渡るとまたバル!ここは芝生が青くて日影が気持ちよさそう。パラソルの下で冷たいビールを飲んでる奴がいる!うまそう!もうだめ!コロリと誘惑に負けてしまう。
「おばちゃん!生一杯!」カンカン照りの中をペレグリーノたちは行く。僕はそれを眺めている。「これでいいのだ!」と天才バカボンのパパも言っている。これでいいのだ!1時間あまりボーッとしていた。これも旅!それにしてもビールを飲むと眠たくなる。さて、そろそろ行くか!

 巡礼路は国道の下のトンネルをくぐる。その先で反対から歩いてくる日本人男性と遭遇。逆打ちされていたのは川尻さん。実に旅慣れた方。短パン・ノースリーブ・荷物はホタテ貝付き図多袋ひとつ・頭にはマラソンのキャップ・首にはタオル。Simple is bestだ。「コンポステーラの手前100キロからは、やはり人が多いですよ」と教えていただいた。「お気を付けて!」「ブエンカミーノ!」風のように去っていかれた。実にカッコイイ!ハポンペレグリーノでした。

空は完全に晴れた。711日は夏。いまころ中学校は期末テストが終わって、成績出すのに先生たちはヒーヒー言っている時期だ。暑くて当然か!やっぱりビールが効いている。歩きながら眠れる。まぁーあかん!ねむい!
道端のモホンはいまや黄色い矢印のみでホタテ貝もなければ、距離数のプレートも持ち去られて、ない!どこのどいつだ!こんなことするのは!罰当たり目が!
 
N-547 SANTIAGO の道路標識があった。巡礼路はまた国道の下をくぐる。くぐったところに見覚えのある小さな教会があった。これが実に可愛いのだ。前回来たときは6月で、花が咲き乱れていてもっときれいだった。木立の間を通って細道が続く。そういえばこの近くに良い宿があったな。前はわざわざ引き返して泊まれるどうか聞いたのだが満員だった。今回はどうだろ?まだ時間が早いがこれだけの人数の巡礼者がいるし…。でも、聞くだけ聞いてみよう。
 ノックして出てきたお姉さんのおそるおそる「泊まれますか」と聞くと「どうぞ」と迎え入れてくれた。やりました!建物は2階建て。見るからに古民家。看板に描かれた人物は「可愛い魔女」だと思ったが、よく見るとペレグリーノだった。居間には民族衣装の絵や写真が飾られスペイン民宿そのものだった。寝室では広いベッドが床に並んでいる。
シャワーをゆっくり浴びて、洗濯物を干しに裏庭に出た。すると、なんとそこにドイツ人のソニャがいた!なんたる偶然!これで4度目の出会い!
もし、もう少し吾輩が若ければこれは恋に堕ちるしかないのだ!
彼女は出会う度にいつも違う女性といっしょだ。今回の相棒はドイツ人のクリスアーナだった。彼女は背が高い。クリスは大学生だがソニャはドイツのスーパーで働いていたのだという。コンポステーラについたら少し休んで、また別の道を歩くのだそうだ。ソニャはベジタリアンだがワインは飲む。夕食は宿の同じテーブルだったので楽しく飲んだ。僕はゆっくり行くのでサンチャゴ入場は2日後。最後の最後に懐かしい人に会えてよかった。こんな粋な計らいはだれがしたのだろうか。楽しい楽しい晩餐でありました。

旅は出会いと別れの連続。二度と会えないはずの人に会い。会えるはずの人には会えなくなる。これもまた運命。

あと2日、明日は何が起こるかな!

わくわくドキドキのカミーノはまだまだ続きます。

明日のこころだー!

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