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2020年8月19日水曜日

奈良ファミリーと柿の葉寿司

  

 私が学生だったころ、奈良ファミリーの建物の南側にミスタードーナツがありました。南都銀行も独立した建物だったような気がしますが、自信がありません。奈良ファミリーの建物に入ると、通路をそこそこ入った右手に本屋さんがあって、その奥には、地下に潜りこむようにイベント広場のような広場がありました。ステージは東向き、対する客席が西向きだったような。40年ほど前の話です。秋篠川を挟んだ東側には家具屋さんがあった。

 屋上がどうなっていたか、さっぱり思い出せません。屋上へ行ったことがあるのかどうかも思い出せません。

 

 その屋上に先日行ってみた。屋上には子供用の遊具があって、子供たちの歓声が聞こえて…というのは昔の話。ビアガーデンもありません。どちらかというと静か。屋上が静かであることを知っている大人たちが少しいるくらいで静かなものです。バーベキューでもするのでしょうか、飲食店があって、ほかには菜園、神社。

 あとは、東側の景色がよく見える展望台としての役割でしょうか。全体のイメージとしては、知る人しか知らない(言葉としては至極当たり前だけど)隠れスポットというイメージです。

 

 そのままイオンの(40年前ならジャスコです)地階におりました。見つけたのがカルビーのポテトチップス奥大和柿の葉すし味。私としては珍しいことですが、買ってしまいました(安いもんです)。ポテトチップスで実現させる柿の葉すし味ってどうよと思う興味だったのかもしれません。

 この企画はカルビーがラブジャバンプロジェクトとして、47都道府県それぞれの味を作り、地元や日本を元気にしていこうという企画らしいです。驚いたこと

に、カルビーが「地方自治体と協力して商品づくり」をしたのだということ。

 食べてみました。食べる前に、「これは柿の葉すし」味だと告げられたら、「あぁ、そんな感じの味ね」と思うけれども、ヒントなしで食べた後、「これ何味?」と尋ねられても、おそらくは柿の葉すしだと気づかないだろうと思われる点です。酢の感じがポテトチップスとしても違和感ありません。

 

 もうひとつ、書きたいことがあります。奥大和という表現についてです。この奥大和ってどう定義するのだろうという疑問。検索をかけてみると、奥大和とは「奈良県南部・東部エリアの総称」だと、奥大和プラネットオフィスというところが言っているらしい。そしてのその元締めが奈良県地域振興部奥大和移住・交流推進室だそうですから、お役所が名付け親だと思われます。この間、奥明日香という言葉を見ましたし、奥出雲とか、奥をつけるとブランドがアップするんでしょうかね。

(hill)

 

2020年8月12日水曜日

『奈良の文学とことば』 奈良大ブックレット08  ナカニシヤ出版

  若い人たちが読むことを念頭において、平易な言葉で、奈良大学の知的人的資源を活用して歴史、文化、社会、人間について取り上げる奈良大ブックレットシリーズの第8弾。今回は国文学科の先生方6名が奈良の文学やことばに焦点を当てて執筆した一冊。

 

 3つの章とふたつのコラム、そして資料編と、コンパクトで、私のような理解に時間のかかる者でも、最後までたどり着けました。

 いきなり、「ガゴゼ」という化け物の話からスタート、これが元興寺とかかわりがあるらしい。語源とはどういうものなのかを教えてもらったのが、私にとってはこの章のいちばんおいしいところでした。「私たちは正体不明のことばに出会ったとき、自分が知っていることばをもとに後から語源を作り上げ、正体不明に正体を与えようとする」「実際にそのことばを使う人々たちにとっては、それが後付けであろうと何であろうと、それこそがそのことばの正体」というところに、なるほど!と納得をしたのでした。

 関西人である私たちには、「邪魔すんでー」「邪魔すんのやったら帰ってや」「あいよー」という掛け合いはすぐに出来ます。私たちがお店に入るとき、何と言って入るか。近畿地方でもいろいろに分かれるそうです。そういう方言について書かれたコラムもあります。

 また、かつては奈良に映画製作会社が多くあったとか。

 奈良というと古いものばっかり思い浮かべてしまいますが、近代の奈良も楽しいところ。「奈良と近代文学」の章も、読めばすぐ話題の場所へ出かけたくなります。田山花袋、森鴎外、志賀直哉、武者小路実篤がこの章で登場します。

 大学の先生方の書かれた本ではありますが、あまり難しい顔をして読まずに済みました。私たちは毎年、ここに登場する先生方の講演を聞かせてもらっていますから、大きな円卓で先生方が向かいに座って、お話を聞いているような印象を持ちました。楽しい一冊です。20203月の発行。900+税で、楽天で買いました。

 我らが浅田先生の時代からは、先生方の面々もごろっと変わったなと思っていたら、なんと、文章にこそ名前はありませんが、使われているカラー写真はぜんぶ、浅田先生の写真だそうです。

 出版社による説明はこちら

 

(hill) 

2020年8月5日水曜日

2017年 スペイン巡礼 北の道 編集室から


 


少し前のことになりますが、NHKBSで、『聖なる巡礼路を行く~カミーノ・デ・サンティアゴ 1500km』という3回シリーズのドキュメンタリー番組を観ました。南仏のル・ピュイ・アン・ヴレイからピレネー山脈を越えて、キリスト教の聖地、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを徒歩で目指す旅「サンティアゴ巡礼」をする人たちを取材したものでした。巡礼者たちは、何を思い、なぜ徒歩の旅に踏み出したのか?そんな番組です。番組によれば、年間35万人がこの巡礼路を歩くと説明されています。
このブログで、『2017年 スペイン巡礼 北の道』と、2013年に公開された『スペイン巡礼 -800キロ歩き旅-』の編集を担当した岡部秀樹です。
昨年の925日に掲載がスタートした、『2017年 スペイン巡礼 北の道』全45回の編集作業が終了しました。棚橋さんから寄せていただいた文章と写真を毎週水曜日にブログ記事としてアップする。この仕事から、私は解放されるわけです。
ブログ編集者の仕事は、棚橋さんの原稿を確認することと、原稿と同時に送られてきた写真を確認して、リサイズやトリミングをすること。さらに、Googleマップを埋め込む作業などです。1回分の掲載にかかる作業は早ければ1時間ほどです。
それらの作業のうち、いちばん時間を要するのはその写真がどこに収まるかを決める作業、つまりは文章と写真の関係性を確定する作業です。その日の出発地と到着地はタイトルで明らかにされていますから、だいたいのルートは想像できます。写真とGoogleストリートビューを照らし合わせると、この道を歩いているはずとか、ここで寄り道をしているというようなことが見えてきます。ついでですが、棚橋さんはデジカメの時計を現地に合わせ直すことをしていませんので、写真のデータから撮影日時をよんで7時間引くことになります。なかには、頑張っても足取りがさっぱりつかめないという回もあります。そういう回は作業時間が短い。わからないものは、テキトーに写真を配置するしかないからです。いちばんやっかいなのは、ほどほどにルートがつかめるのに、「この写真の場所だけがわからん」という場合です。いわば犯人の足取りを追う刑事のような作業を画面上でおこなっているわけですが、「この1枚だけ、場所がわからん」という場合、編集者は深みにハマり、のめり込んで身動きができないまま、何時間も過ごしてしまうのです。「泥沼」の例をひとつ紹介します。

22621日(水) オレナ~コミージャス】で、棚橋さんは、体調不良によりバスに乗って医者へ向かいます。オレナは小さな村。写真にあるバス停なんぞすぐに見つかるはずなのですが、どうしても見つりません。写真のようなバス停がない。仕方がないので電信柱の形状で似たものを探してやっとたどり着きました。なぜ、そんなに時間がかかったのか。答えは、ストリートビューが撮影された2009年当時には、バス停の小屋もベンチもなかったという事実でした。棚橋さんの旅は2017年。編集者は実際の旅より8年もデータの古いストリートビューを頼りに「捜査」をしていたのでした。今回の「北の道」はスペインでも田舎を通っているらしく、ストリートビューは10年以上も更新されていないようです。
棚橋さんの写真。20176月撮影のオレニャのバス停。待合所がある。
 
 googleストリートビューの画像。棚橋さんの写真と同じところには見えない。
ストリートビューの画面右下に撮影年月が書かれている。2009年10月の撮影。

もうひとつ、書かせてください。
3977日(金) 後半 バーモンデ】の回。アルベルゲで眠りに入った巡礼者たちは突然の大音響で起こされます。バルの新装開店イベントで仮設ステージが作られ、夜中にショーが始まる…そんな回です。夜間の写真は遠景が見えないので、ステージのあった場所がどうしてもわからない。わからなくても写真の配置に困ることはないのですが、編集者として悔しい。あれこれ挑戦するうちに見つけました。デルク夫妻の写真とストリートビューのこの場所が同じであることがわかりました。ヒントは今回も電信柱でした。ここまでわかると、仮設のステージがどこに組まれていて、新装開店のバルとの位置関係がどうだったかの理解もすぐでした。

棚橋さんの写真。デルク夫妻を撮る。右の電信柱の広告に注目。

ストリートビューの画像。電信柱の広告が棚橋写真と同じことに気づいた。同じ場所だ!

編集者の作業は、いわばどうでもいいようなことの繰り返しです。誤字脱字、誤変換があっても、読点の位置が変でも、写真の位置がちぐはぐでも、読者は修正を加えながら読んでくださるからです。しかし、私にとっての編集作業はひとつずつ謎を解くような、知恵の輪がひとつずつ外れていくような楽しみなのです。
実は、編集者としてはその回の作業が終わったら、ブログの読者の目に入る前にその回とはさようならです。読者としてアプローチするより、次の回の編集作業のほうが大切ですから。しかし、今回編集の都合で、『2017年 スペイン巡礼 北の道』、遡って『スペイン巡礼-800キロ歩き旅-』を読み返す必要があったのですが、読んでみると結構面白い。「こんな面白いものだとは知らなかった」棚橋さんごめんなさい。

日本のお遍路では「同行二人」という言葉があります。巡礼者はお大師さんと二人連れという意味だそうです。お遍路の棚橋さんの旅に私も3人目としてこっそり同行させていただいた45回。これで終了かと思うと、解放される気持ちと、これで巡礼ともお別れという寂しさを感じています。ただ編集の作業に関わっただけの者でもこうですから、巡礼者、執筆者ならなおさらでしょう。棚橋さんは第44回で、こう記しています。

明日はいよいよゴール。長かったカミーノもついに終わってしまう。
うれしいようなわくわくもあり、悲しいようなせつなさもある。

先に記したNHKの番組でも、サンティアゴまで52kmというメリデという町で、「複雑な気持ちだよ。サンティアゴに着くのはうれしいけど、巡礼が終わってしまうのが悲しいんだ。」と巡礼者が話すシーンがありました。
棚橋さんは、3度目のスペイン巡礼は自転車で挑戦したいと考えているようです。3度目のサンティアゴ到着ののちには、また私にも「同行」させてください。
お疲れさまでした。ありがとうございました。

岡部秀樹