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2020年1月1日水曜日

2017年 スペイン巡礼 北の道 (15)

 711028 棚橋正人
    

6月14日(水) ポベナ(Pobena) ~ カストロ・ウルディアレス(Castro Urdiales23


浜辺にある宿を出て朝飯を食べにバルへ向かう。空はどんよりクラウディ。浜の外れからいきなり急な上り。ヒーヒー言いながら登って振り返ると砂浜が見下ろせる。「北の道」はずっと海の道である。
 
写真を撮っている鈍足遍路は瞬く間にみんなに追い越される。断崖に朝露に濡れた花が咲いている。以前こんな景色のところを旅したことがあった。確かあれは自転車でオホーツク海を南下している時に見た景色だ。あれはそう、別海町の海沿いだ。海が見渡せる見晴らしのいい場所に大きいキャンピングカーが止まっている。スペインはこれからバカンスのシーズンに入る。フィステーラ岬でも同じような景色を見た。断崖の下の岩場に波が白く砕けている。ダダダダーン!火曜サスペンス劇場のシーンが延々とつづく。

遊歩道の先に岩をくり抜いたトンネルが現れた。それを通り抜けると崖の中腹に茶色の山羊がお出迎え。野生なのかな…?海に転がり落ちそうな場所で平然と草を食っている。長野の山で「なんでこんな危険な場所に」というところに立っているカモシカを見た。奴らの感覚は人間とは違うのだな。夏のスキー場をマウンテンバイクで下っている時、林道の山側の崖からカモシカが落ちてきてびっくりしたことがある。猿は木から落ちるし、カモシカも崖から落ちることはあるのだ!あんなのにぶつかられたら只ではすまない。気を付けよう!

小さな村に出た。私営のアルベルゲの看板が立っている。おもしろそうな宿だがここではまだ泊まれない。村はずれまで来たら、道に黄色いペンキで「COAST SHORT WAY」と書いてある。道は山側に回り込む正規ルートとこのまま海沿いを行くショートカットに分かれる。まよわずSHORTを選ぶ。しばらく行くと眼下に小さいビーチと乗馬の施設が見えてきた。立派な施設だが視界に馬はおらず、静かだった。
岸壁に洒落たバルがあったので休憩。犬連れで散歩する人、堤防から釣り糸を垂らす人みんなのんびりでいいなぁー。
巡礼路にもどると岩穴にイエスを抱いたマリア様が祭られていた。日本ならお地蔵さんか観音様なのだが、やはりここは別海町ではなくエスパーニャなのだ。
その先に断崖から海に向かって鉄橋が突き出している。なんだろう?ずいぶん古くていまは使われていない。説明書きはあるがスペイン語はまったく読めない。帰ってから写真に撮っておいたのを訳してみると、採掘した鉱石を船に積み込むための設備だった。そういえばさっきの岩山のトンネルはトロッコが通るにはちょうどいいサイズだった。芥川龍之介の「トロッコ」は土工が押していたが、ここのトロッコは馬が引いたらしい。ビルバオは昔、鉱石の採掘で栄えたというからこれらはその産業遺産なのだ。

やっと大きな町が見えてきた。たぶんあれが今日めざすカストロ・ウルディアレスに違いない。この町の外れに今夜の宿があるはずだ。
  大きな町で、ビーチではカップル・家族連れが日光浴をしている。ショッピングセンターの中心には宇宙人が抱っこするマーメードのブロンズ像が飾られている。リゾートマンションのような建物もあって、ここはひと夏をのんびり過ごすバカンスの町のようだ。港にはヨットやクルーザーが停泊している。いつの間にか晴れて眩しい浜辺には絵に描いたような金髪ビキニの美人が歩いている。映画のワンシーンのようだね、まったく!
街には服やお土産などいろんな店が並んでいる。スーパーがあったので水と食料を買った。出口に行くと、物乞いのおじさんが通る人に「おめぐみを」と声を掛けている。1ユーロは130円だが、コインは50セント・20セント・10セント・5セントとある。その小銭を23枚紙コップに入れる。丁寧にお礼を言われた。今回の旅で物乞いは初めてだった。これからのバカンスシーズンをねらって流れてきた人なのだろう。巡礼者は道中いろいろな人に助けられながら旅をする。親切を受けることはあっても返すことはなかなかない。アジアから来た遍路は路上で托鉢をする乞食(こつじき)に目が向く。

四国では「逆打ち」といって時計の反対回りで巡礼をすると、八十八のお寺のどこかで歩いているお大師さん(空海)に巡り合うという。気付かず通り過ぎることもあれば、そうとは知らず、助けを求めるお大師さんに邪険な振る舞いをして罰が当たったりする。「クリスマス・キャロル」のスクルージではないが、巡礼の旅で出会うことが自分の過去・未来なのかも知れないと、ふと考えてしまう。

ショートカットをしたのでアルベルゲ「CASTRO URDDIAIES」には早く着いた。
シャワーを浴びて洗濯をし終わったころに日本人の自転車の方が宿に着いた。
「自転車放浪人」という名刺をもらった。井上さんとおっしゃるが、旅中は「JIM」と名乗っているそうだ。63歳の定年からヨーロッパ・中国・韓国・台湾と世界中を自転車で走る旅人だ。お年を聞くと72歳。とてもそんなには見えない。膝が悪いとおっしゃるがこんな元気な72歳は見たことがない。たまっていた「日本語話したい病」を解消すべくシエスタのあとレストランに繰り出した。話題は日本の現状について、永年企業にお勤めだったJIMさんと「日本はこのままではいかん!」と熱く語る夜になりました。JIMさんの話でひとつだけ覚えているのは

  昔、パリの街角にテーブルを置いてキッコウマンの営業の日本人が醤油のおいしさを懸命に宣伝していた話。(なんか涙出るなぁー!)車もカメラも電化製品もあんなにすばらしいと日本製がもてはやされた時代があったのに今はどうだ!ハングリーでなくなった日本は何か大事なものを置き忘れてきたのではないか?それになんでカミーノに日本の若者がいないんだ!(バァヤロー!!)

とまあ新橋あたりでは聞けない話をたくさんして、明日のこころだ!!

(つづく)

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