711028 棚橋正人
7月5日(水)モンドネド(Mondonedo) ~ ゴンタン(Gontan) 17㎞
ガリシア地方はともかく雨が多い。800年ものあいだ雨に降られれば石造りの教会にも苔が生える。モンドニェード大聖堂の屋上にはぺんぺん草まで生えていた。それはそれで「わびさび」を好む我々にはとても好ましい。その苔むしたところが、目指すサンティアゴ・デ・コンポステラのカテドラル(大聖堂)と似ている。だが、それは2012年に僕が見たカテドラルで、現在のそれは改修工事ですっかりきれいになっているはずだ。
目覚めると朝焼けが美しかった。丘を上って振り返るとカテドラルが眼下に見える。いい眺めだ!牧草地の中の道をぐんぐん登っていく。歩きくたびれたところで道の脇に農家が一軒見えてきた。看板がある。読めたのは「Open House-donation」の文字。なんだろう?お接待かな?ちょっとのぞいていこう!
テラスのテーブルに昨日のスペイン人の若者がいた。「オラーッ!」と朝の挨拶を交わす。奴らはここに泊まったみたいだ。隣には昨日とは別の可愛い女の子がいる。スペイン野郎もイタリア男には負けず、隅に置けないのだ。
コーヒーがフリーだというので休んでいくことにする。女将さんが出てきてこの先の地図を見せてくれた。若者の一人が「ぜひバスルームに行け」という。「今はいいよ!」と断ったが、それでも行けという。なんだなんだ?トイレに連れ込まれてボコボコにされるのか?ここは「暴力アルベルゲ」だったのか…?
これはなに?きれいな水洗のトイレとシャワーがあって壁にはなんとアルタミラ洞窟と同じ絵が描かれてあった。オーッすごい!牛と馬と古代人が踊っている!外に出るとスペイン人の若者3人がニヤニヤしながら待っていた。
「なっ!すごいだろ?」
「うん!すごい!」
「これは見るべきだろ?」
「そりゃそうだ!」
ここの女将さんは芸術家だったのだ。この壁画を描いたのは2万年前のクロマニヨン人ではなくこの館の主だった。旅人のお世話は奉仕でやっている。こんなところが「北の道」にはあるのだ!これだから旅は楽しい。
四国遍路85番「八栗寺」に向かう坂の途中にもこことよく似た「仁庵」という接待所がある。私費で佳代子さんご夫婦が建てた庵だ。縁側に座ってお茶とお菓子をいただく。ほっこりと癒され元気が回復する。奥の座敷はお茶室になっていた。こんな気持ちのいいところがあることに感激だ。お世話しようという方の思いが自然と伝わってくる。千年続くこの道は、こういう方々の善意が集まって出来ているのだと思った。
さて、にぎやかな奴らも出発したから、そろそろ行くか!お代はドネイション。あとに続く旅人のために大き目のコインを箱に入れた。
村に入ると薪を球体の形に積み上げたのが二つあった。まるでイヌイットの氷の家イグルーのようだ。村の家の屋根がまるで魚のウロコのように見える。これはムーミンの住んでいる家の屋根だ。材料は瓦でも萱でもなく天然の黒くて薄い石だった。それを幅40センチから70センチ・縦の長さを30センチくらいにカットしてある。どれだけ手間のかかる屋根ふきなのだろうか?この技術が伝承されているところがすごい。この屋根材を後から調べてみた。いわゆる天然スレートと呼ばれるもので粘板岩というらしい。スペインが産地で耐久性は何百年というからびっくりだ!
眼下にマッチ箱ぐらいの家々が見える。けっこう登ってきた。昨日に続いて自転車の夫婦が追い越していく。奥さんの方はかなりバテ気味で自転車を降りて押している。俺も、もうだめ!ぐるじー!と音を上げていたら、後ろから「オラー!」と声をかけられ、ベルギー人のデルクとカルラが追い越していく。旦那はスタミナがありそうだが、カルラは着いていくのがやっとという感じだ。なんだ坂!こんな坂!よし俺もがんばるぞ!
次の村に入った。おばさんが一輪車を押しながらシェパードを連れて現れた。「オラー!」「写真を撮ってもいいですか?」OKをもらってパチリ!いいお顔をなさっている。こんなのどかな農村風景の中にいる自分がおもしろい。これで今までの疲れが、全部吹っ飛ぶから不思議なのだ!
ここでまた雲南省の大学生と再会。彼は笑顔で迎えてくれた。
明日はマイワイフ美智子さんの誕生日!忘れずにメールを送ろう!
そんなに距離は歩いてないがずっと登りで疲れた。もう眠れる。
こんな何もない平和な日もありだな!
おやすみー!明日のこころだー!