711028 棚橋正人
6月7日(水) ZUMAIA(スマイア)~DEBA(デバ) 17㎞
本日晴天なり。早朝、修道院を出ると丸いブラシで石畳を掃除する車が忙しく動き回っている。「ブエノス ディアス!」(おはよう)赤いシャツを着たおじさんがあいさつしてくれた。
今日も海岸線を歩く。この海は広く言えば大西洋。スペイン語ではカンタブリア海。手元の帝国書院の世界地図にはビスケー湾とある。この海岸がとにかくきれいなのだ。それもそのはずで中学校の社会科で習った「リアス式海岸」という名称は今いるこのスペイン北西部ガリシア地方が語源なのだ。「リア」とはガリシア語で「入り江」という意味だそうだ。もう少し詳しく言うと「海岸線と垂直方向に伸びる溺れ谷の連続する複雑な形の海岸線」だそうだ。どこかでこんな景色を見たことがあると思ったら、「ダダダダーン!」とテーマ曲が流れる「火曜サスペンス劇場」の定番ロケ地「東尋坊」に見えるではないか!
そういえば以前、岩手県野田にある茅葺(かやぶき)南部曲り屋(なんぶまがりや)のゲストハウス「苫屋」(とまや)の女将さんが「三陸海岸はリアス式海岸なんだよ」と教えてくれた。
野田の海沿いも2011年3月11日の津波に襲われ被害は大きかった。朝ドラの「あまちゃん」の舞台になった久慈の近くなのだ。
2012年のスペイン巡礼の後、苫屋で巡礼のよもやま話を聞いてもらった。
特に世界中の巡礼者がニュースを見て津波と原発の被害を心配してくれていたことを話した。「三陸の海でもホタテが採れるんだよ」と女将さんが言うので、スペインでホタテ貝は巡礼のシンボルであり、生命の誕生や復活を意味するのだと話した。すると女将さんが被災者の方が木彫をやっている作業場があるから行こうという。そして、ぜひそのホタテ貝の話をしてくれないかと頼まれた。作業場には陸にあがった漁師さんがホタテ貝のストラップを木彫りで作っていた。ホタテ貝に復活の意味があるなら復興のシンボルぴったりだねという話になった。
苫屋のご夫婦は世界中を旅してこの野田で宿をされている、とても素敵な方たちなのだ。それにこの苫屋には現在も電話というものがない。それで、ここに泊まりたい人は往復はがきで申し込むことになっている。このスローな宿の囲炉裏端で食べるごはんはとてもおいしい。2度目におじゃました時は女性の猟師さんが仕留めた猪肉をいただいた。これもたいへんおいしゅうございました。
そして、遍路の2度目のスペイン巡礼がこの「北の道」だった。
この景色が、その正真正銘のリアス式海岸なのだ。ナイフ状の岩とギザギザの断崖。すごみのある景色が広がっている。
ガイドブックによれば、このあたりは数々のヨーロッパ映画のロケ地にもなっているそうだ。
海沿いから小さな村のバルに入ったら、オーストラリアの親子がコーヒーを飲んでいた。この家族はもう明日、オーストラリアに帰ってしまうのだそうだ。「ブエンカミーノ!」「良い巡礼を!」あの息子が大人になってまたカミーノにもどってくるといいな。一期一会。また世界のどこかで会えるかもしれない。
バルの向かいの家に鳥かごがあってさえずりが聞こえる。その家からいかにもバスク人という風貌のおじいさんが出てきた。これから新しいスクーターでどこかへ出かけるらしい。エンジンをキックでスタートさせる。ヘルメットをかぶって走り出す前に胸の前で小さく十字を切った。その動作がなんともかわいかった。
牧場とブドウ畑が続く。道端にガラス瓶が置いてあって横の黒板には「マリーゴールドクリーム」と書いてある。どんなものか興味があったが、荷物になるのでやめた。その夜のアルベルゲで女性たちが「ハーブの手作りクリームでとてもよい」と話していた。「しまった!」買うんだった。これも後の祭り。これからは欲しいものはとりあえず買おう!荷物になれば日本に送ればいいのだ。
巡礼路が高速道路の上を跨ぐ。牧場の羊やロバが暇そうにこっちを眺めている。巡礼路はやがて小学校の脇を下ってデバの町に入る。小学生にカメラを向けると男の子がガラスのおはじきのようなもので遊んでいる?おはじきは日本のものではなかったのかな?調べてみると小学校では低学年のさんすうで使うらしい。それを彼らはおもちゃにしてあそんでいたのだ。
町の広場のカフェでは先に着いた巡礼たちが昼飯を食べている。でかいミックスサラダがうまそうだ!今日のルートはまだまだ先まで行く人が多い。
が、俺は本日これまで!無理はしないことにする。
ならば「お姉さん!生ビールください!!」
今日のアルベルゲは鉄道の三階建て駅舎の中にある。駅のアルベルゲは初めてだ。もう大勢の巡礼たちがシャワーもすませて外でくつろいでいる。鈍足遍路はベッドがあるかと心配になったが大丈夫だった。
晩飯は何かボリュームのある旨いものが食いたい!ディナーの鮭のソテーの下に敷いてあったジャガイモがたまらなくうまかった!それに付いてくるワインも美味い!
スペインでは太陽がなかなか沈まない。小さな駅なのに列車が着いて驚くほど大勢の人が降りてきた。ボンボンベッドを抱えたおばさんが歩いていく。どうやら海の方に歩いていくらしい。車いすを押している人もいる。駅の横に川が流れている。ここは河口の町なのだ。そぞろ歩いて行く人々はきっと海に沈む夕陽を眺めに行くに違いない!
スペインには黄昏がよく似合う。人々の中のなかなか沈まない夕陽をぼんやりながめる心の余裕がある。時間の流れ方が、どうやら日本人とは違うみたいなのだ。
明日からのカミーノは海を離れて内陸の道がしばらく続く。
さて、明日は何がまっていることやら。明日のこころだ!!
(つづく)
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