外堀公園総合グラウンド |
次に東京へ行くことがあったら、行ってみたいと思っていたところが四谷界隈です。井上ひさしの短編小説「ナイン」に登場するのが、新道と呼ばれる商店街と外堀公園野球場。最近ではありがたいことに、どこにいてもgoogleストリートビューで通りの雰囲気はつかめますが、やはり現場で雰囲気を感じたいと思っていました。
「ナイン」という小説は、1983年秋を現在として、新道の商店街にある中村畳店を訪ねる「わたし」が、畳店の主人から、20年近く前の新道少年野球団が区の野球大会で準優勝したころを懐かしむ話を聞くというストーリーです。そして外堀公園野球場が野球大会の会場という設定でした。
自転車を借りて新宿通りを四谷方面に走り、駅の手前で外堀通りへ左折したのはよかったのですが、目的のしんみち通りに気づかず通り過ぎてしまいました。いつもそうですが、地図も持たず頭の中のおぼろげな記憶だけで行動するものですからこうなってしまいます。大規模な工事中の箇所があったので、もしかしてしんみち通りはなくなってしまったのかと思っていました。
とりあえず外濠公園総合グラウンドへ行ってみました。外堀通りから降りた崖には彼岸花が咲いていました。こんな街中でも彼岸花が見られるんだ。江戸城の外堀の跡に作られたグラウンドは、すぐ隣にJR中央線が通っていて、黄色の帯を巻いた中央線各駅停車が走るのが見えます。小説の中では感じられなかった列車音。オレンジ色の快速電車が見えないのは、快速電車が通る急行線が、グラウンドの辺りでは緩行線の下に潜る格好になっているからでした。休日なのにグラウンドは利用者がありませんでした。金網の向こうで静かにグラウンドはありました。雨上がりで、グラウンドには水たまりも少し。ホームベースの位置に立ったつもりで位置関係を確認すると、ライト、センター方面にJR中央線の電車が見えます。キャッチャーが南東の方向を向いて構える格好になります。少年野球団のころにはなかったベンチの屋根。今は一塁側、三塁側ともベンチには屋根が付けられています。西側、外堀通りの向う側にビルが建っているのは小説のとおりなのですが、ビルが「野球場に覆いかぶさるように立って」いるというのは作者の「盛り」、演出であるように思えます。現場に立って太陽の位置を考えてみます。三塁からホームベースへのラインをずっと延長すると、崖と外堀通りを越えて雪印メグミルク本社あたりにぶち当たります。このラインはほぼ東西に伸びているので、三塁側のベンチは南に向き、一塁側のベンチは東を向いていることになります。決勝戦の行われた夏の午後、三塁側が日影ができないのは当然として、一塁側には桜の木の日陰ができたかどうか。小説に登場したころはどうだったのかわかりませんが、現在の状況なら、日陰を作るほど桜の木はグラウンド側に張り出していないように思われます。
崖とグラウンドの間は、四ツ谷駅から市ヶ谷駅方面への通路にも使われているようで、自転車や歩行者が行き来しています。「しんみち通りを探しているんだけど」と、買い物帰りと思しきおばあさんに尋ねてみました。彼女は「今もありますよ」と教えてくれました。そこで、グラウンドからテニスコート横を通って、スポーツジムの前の坂を上がり、四谷の駅前に出ると、先ほどは気づかずに通り過ぎていたことがわかりました。
交差点を渡ってしんみち通りを、自転車を押して歩く。日曜日の午前中ですからほとんどのお店は営業前。人通りもほとんどありません。でも飲食関係がほとんどのように思えました。「新宿ルーペ」というサイトの四谷駅前新道会によれば、「直線150mの間に70件以上もの飲食店が並ぶ通り」だそうです。なるほど、ぎゅっと詰めこんだ、こってりした印象の通りです。夜になったら楽しいだろうなと思います。昔は、ここに畳屋やクリーニング屋やガラス屋もあったという設定なのですね。「主人が会社勤めの普通の家」は通りには見当たりません。通りから一本奥へ入ると「普通の家」が見えました。
2016年9月訪問
「日本食糧新聞」のサイトに、しんみち通りの1993年の記事が見つかりました。「ナイン」の頃の雰囲気が伺えます。
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